単純なものほど歴史があるという思い込み
「私たちは、素朴や可視性、単純さ、直感的理解の容易さがあればあるほど、古くて歴史的なものと思い込んでしまう。」~加藤重治著 日本人も悩む日本語 より~
「私昔ながらの者が好きなんだー!」なんて言っていかにも奥ゆかしげなものを好む人がいますね。でも、上の言葉のように知らず知らずのうちにそれほど奥ゆかしきものではなく、むしろ新しいものを好んでいる場合があります。
字を書くときに用いるものの代表格、鉛筆とシャープペンシル。どちらが先に登場したでしょうかと訊かれるとほぼ100%の人が鉛筆と答えると思います。
シャープペンシルは見た目も機能もハイテクに見えるし、金属とかプラスチックを使っているから当然木を材料としている鉛筆よりも新しいだろうと考えてしまいます。
しかし実際はどちらも18世紀には登場しており、鉛筆の方が明らかに歴史があるとは言い難いようです。
簡素でシンプルなものほど伝統があり、複雑で技巧的なものほど近代的だという思い込みは自分の昔好きの墓穴を掘ることになりかねません。
歴史と伝統を好むのは大いに歓迎しますが、その歴史性を知ったかぶっていると「伝統を好む自分」ではなくて「伝統を好む自分を好む自分」に成り下がってしまいます。それは嫌ですね。
人の思い込みとは怖いものです。なめてかかると痛い目に遭います。
意外に深い歴史を持つものを探してみて「え!?これってあれよりも古くからあったの?」なんて驚くのも面白いと思います。